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【生命科学コース】ウコンの主要成分であるクルクミンがブタ卵子の質の向上に有効であることを解明(山下教授)

印刷用ページを表示する 2025年2月10日更新

​生命科学コース、動物生殖生理学研究室(山下教授)の研究成果がAnimal Science Journalに掲載されました。

【発表論文】

Curcumin suppresses ROS production and increases mitochondrial activity in cumulus cells and oocytes of COCs derived from non-vascularized follicles in pigs.

Nakanishi T#, Tonai S#, Ichikawa H, Mori S, Ishihara S, Chang Y, Yamashita Y*.

Animal Science Journal, 2025, doi: https://doi.org/10.1111/asj.70032

#: They contributed equally to this study

*: Corresponding Author

日本語タイトル:クルクミンは,退行卵胞由来の卵丘細胞と卵子の活性酸素の産生を抑制し,ミトコンドリア活性を増加させる

【概要】

  体外成熟(IVM: In Vitro Maturation)法は,家畜の増産,ヒトの不妊治療に応用されています。IVM法は,未成熟な卵胞注1)から卵丘細胞卵子複合体注2)(Cumulus-Oocyte Complex: COC)を取り出し,体外培養する方法ですが,この方法を用いた卵子の成熟率は,ブタでは約20%と低く,改善が求められています(図1)。動物生殖生理学研究室では,これまでの研究により,卵胞表面に形成される血管の有無により,優勢卵胞をVascularized Follicle(VF),退行卵胞をNon-Vascularized Follicle(NVF)と分類し,これらの卵胞由来の卵子の成熟率について検討を行ってきました。その結果,VF由来の卵子は極めて高い成熟率を有している一方,NVF由来の卵子は成熟率が低く,(Okamoto et al., 2016, Biology of Reproduction),この原因はNVF由来の卵丘細胞がアポトーシスを誘導されている結果であることを見出しました(Nakanishi et al., 2021, Molecular Human Reproduction)。しかし,VF由来のCOCとNVF由来のCOCの形態を比較しても違いが認められないことから,IVMに用いるCOCには,VF由来の卵子に加え,NVF由来のCOCも混在しており,これが全体として卵子の成熟率を低下させる原因となっており,NVF由来のCOCも効率的に成熟させる方法を開発する必要があると考えました。これまでの研究により,退行卵胞由来の卵子は,活性酸素種(ROS: Reactive Oxygen Species)が蓄積しており,これが卵丘細胞や卵子のミトコンドリア活性を低下させる結果,卵子の質が低下することが知られています。したがって, ROSの影響を低減させることができれば,NVF由来の卵子の質を向上させることができると考えられました。

 クルクミンは,ウコンなどに含まれる黄色のポリフェノールで,強力な抗酸化作用を有することが知られています。これまで,クルクミンは,様々な細胞腫においてROSの産生を抑制し,抗炎症,抗アポトーシス作用などの効果があることが明らかにされています。このことから,クルクミンを培地に添加することにより,退行卵胞由来の卵丘細胞や卵子のROS産生を抑制し,卵子の質を向上させることができると考えられました。

 そこで本実験では,クルクミンを添加した培地で退行卵胞由来の卵子を培養し,卵子のROS産生量,ミトコンドリア活性に与える影響を検討しました。その結果,卵丘細胞の膨潤卵丘細胞および卵子のROS産生量について検討したところ,VF由来の卵丘細胞と卵子は培養前からROSの産生量は低く,この低いROS産生は培養を行っても増加することはありませんでした。一方,NVFの卵丘細胞や卵子では,培養前からROS産生量が高く,クルクミンを添加していない培地で培養した卵丘細胞や卵子は,ROS量が高いままでしたが,クルクミンを添加するとROSの産生量が抑制されることを明らかにしました(図2)。また,ミトコンドリア活性はVF由来の卵丘細胞や卵子ではクルクミンの添加の有無に関係なく高い値でしたが,NVF由来の卵丘細胞と卵子ではクルクミンを添加しなければ低いミトコンドリアか活性が,クルクミン添加によりVF由来のそれらと同程度まで回復していました。NVF由来の卵子の成熟や卵丘細胞の膨潤注3)もクルクミンを添加すると増加することから(図4),クルクミンは卵丘細胞や卵子に作用してROSの発生を抑制し,ミトコンドリア活性を高くすること,この結果NVF由来の卵子においても高い成熟能が獲得できることを明らかにしました。

 

研究目的
クルクミンが卵子のROS量に及ぼす影響
クルクミンが卵子のミトコンドリア活性に及ぼす影響
クルクミンが卵丘細胞の膨潤に与える影響

本実験は,山下研究室で博士号を取得した中西寛弥 博士(現 iBody株式会社 博士研究員)と藤内慎梧 博士(現 大阪大学微生物学研究所 博士研究員)の2人が主体的に研究と論文執筆を行なったことにより得られた研究成果です。また,山下研究室の市河暖翔君(博士課程前期1年)と森翔太(学部4年)も研究に参加し,一部のデータを得てくれました。

また,本実験で使用したクルクミンは,ヤヱガキ発酵技研から提供されたものであり,研究もヤヱガキ発酵技研との共同研究として行われました。

 

【用語説明】

  1. 卵胞:卵子を含む構造。最外部に顆粒膜細胞が存在し,卵子の周りには卵丘細胞が存在する。
  2. 卵丘細胞卵子複合体(COC):卵丘細胞卵子複合体のこと。卵胞が形成される過程で卵子の周りに存在していた顆粒膜細胞が卵子を取り囲む構造をとり形成される。
  3. 卵丘細胞の膨潤:COCを培養すると卵丘細胞が膨化する現象。卵子成熟の重要な指標の一つ。

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